ほしぞら
てくてく、とことこ、森のみち。
サクサク、パキパキ、森のみち。
いっぽ、いっぽ、歩くたび、
いっぽ、いっぽ、音がなる。
ポケットのなか、
ふしぎの石も、ころーん、ころーん。
森のみち、森の音、たのしいな。
その時、
「しっー、ちょっとしずかに」
どこからか、まじめな声。
声のほうを、見てみると、
木と、木と、木と、それから、木が、
手をつなぎ、あつまって、
まあるい、小さな森のドーム。
みんなで、何をしてるの？
そおっと、ちかづく。
木のすきまから、のぞいてみる。
夜みたいに、まっくら。
入ってみると、少しひんやり。
すると、
「だいじょうぶだってば。
じぶんで、なんとかするってば」
くらやみから、だれかの声。
「星がひとつも、ないなんてねえ」
まわりの木たちは、ザワザワ。
ここは、森のプラネタリウム。
夜が、はじまるばしょ。
天井に広がるのは、まっくらな、よぞら。
黒いスクリーンみたいなよぞらは、
星をむかえて、ほしぞらになる。
昼のあいだ、
ここで、こっそり、そのじゅんび。
それなのに、春の星が入る扉を、
うっかり、しめちゃったみたい。
木たちは、うんと背のびをしたり、
枝をのばして、扉をさがしている。
でも、よぞらは、
「夜、空を見あげるみんなに、
あしたも、がんばろう。あしたは、がんばろう。
そう思ってもらえる、ほしぞらになりたい。
だから、じぶんだけで、がんばらなきゃ。」
そう言って、扉のばしょを、おしえない。
とはいえ、星のあかりがなくて、
あたりは、まっくら、まっくろ。
よぞらは、扉が見えない、じぶんでも。
コロルは、小さな声で、
「困ったときは、
たすけてもらって、いいんだよ」
よぞらに、そっと、ささやいた。
そして、足もとにある、枝や石ころを、
扉はどこだ、えいっと、なげてみるけれど、
あてずっぽうでは、あたらない。
すると、
ころっ
ころろっ
ポケットの石が、飛びだしそう。
だめだめ、こんなにまっくら、
まいごになっちゃう。
その時、
キラキラ どうぞ
キラキラ ひとつ
石が、光りだした。
まるで、宇宙で一番、明るい星。
これなら、見える。
よぞらは、ホッと力がぬけたように、
「扉はドームのてんじょう……」とぽつり。
光る石をかざし、見あげると、
プラネタリウムのてんじょうに、
星ひとつ、くぐれそうな、小さな扉。
あった！
扉めがけ、石をまっすぐなげる。
石が、扉にむかって、すすんでいく。
コンっ！
キィー！
バカッ！
小さな扉が、ひらいた。
さあ、星たちが、ぞくぞくと入って、
……来ません。
あれ？ なんで？
たずねると、よぞらはお礼がわりに、
星のものがたりを、聞かせてくれた。
星たちは、きのうより、もっとむかしから、
はるばる、ここに、やって来る。
この森にたどりつくまで、時間がかかるんだ。
それにしても、おそいな。
道に、まよっていないかな。
遠くて、あきらめていないかな。
この扉が、わかるかな。
よぞらの心配が、あふれ出したたその時、
シュッ
シュシュッ
扉のむこうから、次々、星がとびこんできた。
よぞらは、長い旅をしてきた星たちに、
「よくきたね」
「会いたかったよ」
「元気そうだね」
ひとつ、ひとつ、声をかる。
星たちは、よぞらに、はなたれて、
チカチカ
チカチカ
赤、だいだい、白、そして青、
おのおのの色に、またたきはじめた。
そして、とうとう、
黒よりもまっくろだったよぞらは、
かぞえきれない星のあかりを抱いた、
りっぱな、ほしぞらになった。
この森のほしぞらを、見あげていると、
よしがんばろうと、おもえてくる。
じぶんのことが、大切に、おもえてくる。
それは、ほしぞらの、
なかまの星たちを、大切にするきもちが、
見あげる人にも、うつるから。
コロルの心が、ほしぞらの色にそまってゆく。
夜のじゅんびは、これで、かんりょう。
あとは、おひさまが、
森にかえってきたら、バトンタッチ。
ほしぞらを広げる、森いっぱい。
それまで、みんなで、ひとやすみ。
ほしぞらは、星たちを抱え眠りについた。
コロルは、「おやすみ」を小さく言って、
ねむる森のプラネタリウムをでた。
そして、
「きみは、大切なともだち」
石をポケットに、そっと、しまう。
こんどは、音をたてないよう、
しずかに、森のみちを歩きだす。
ポケットのなか、
石も、そっと、ほしぞら色。
つづく
ほしぞら
Charcoal Black
星が輝く広い夜空をイメージしたチャコールブラック。光に包まれたような、やわらかな黒です。定番色でありながらも差がつく、特別な色合いです。