いずみ
森のみちを、けんけん、ぱっ。
ポケットのなか、ふしぎの石も、
ころ、ころ、ころっ。
木と木のあいだ、葉と葉のすきま、
こかげ、こもれび、けんけん、ぱっ。
ぱっと、口を、開くたび、
からっと、のどが、かわいてく。
ゴクゴク、のみたい、おいしいお水。
どこかに、ないかな、森のいずみ。
あしもとに、
まんまる、みずたまり。
ちいさな、森のかがみ。
見つめていると、
まんまるの森が、わずかに、ゆれている。
うるうる
みずたまりが、泣いている?
耳をすますと、
しくしく
声をかけようとした、その時、
みずたまりから、ぴっちょーん!
「きみ!また会えたね!」
とび出してきたのは、水のしずく。
「わっ、たぶん、人ちがいです!」
あとずさり、うろたえるコロル。
ぴっちょーん!
水のしずくは、うれしそうに、
早口で、しゃべりだす。
「ぼく、水の旅人。もとは、きみの涙だよ!
あれからね、水玉になって、空にかえって、
雨になって、森にふってさ、今ここ、みずたまり。
この再会って、わけ!」
コロルは、泣いたじぶんを、思いだし、
ちょっと、はずかしくなって、話をそらす。
「みずたまりさんは、どうして、泣いているの?」
みずたまりは、涙のあいだから、
「わたし、もうすぐ、かれて、消えちゃうの。
ここで、じっとしているだけで、何もできないし。」
うるうる
しくしく
どうしたものか、考えるコロル。
雨が、もっと、ふらないかな。
涙は……もう、ふらなくていいな。
水の旅人は、
「そとから、そそぐだけじゃ、だめなんだ。
底から、わいてくるものが、あればなぁ。」
わいてくるものって、なに?
「みずたまりは、すごいんだ。ここにいるだけで。
ぼくら、水の旅を見たら、分かるんだけど。」
すると石が、ポケットから、
しずかに、ぽろっと落ちた。
ころっ
ころろっ
ちゃっぽん
みずたまりの、なかへ。
サアアアア
ザアアアアーーーーー
みずたまりに、
うつし出されたのは、森ではないもの。
ぽん!うかびあがるタイトル、
『みずたまりものがたり』。
とつぜん森のえいが会、はじまりはじまり…
『はじまりは、
小さな涙、小さな雨、ひとしずく。
水の旅人は、へんしんじょうず。
すがたを、かえて、いつもどこかに。
森。
つるんぴちょん、このはをすべり。
土をくぐって、じゅわぽこ森のそと。
川。
ちょろちょろ流れでた川は、
だんだん水のジェットコースター。
海。
波にゆられザッパーン。
波にもまれザブザブ。
空。
小さな水玉になったら、
ぷくぷく空へのぼってく。
ーそして、森のある午後。
ザーザー雨がふる。
じゅわぽこ土からわきでてくる。
水の旅人たちが、
あっちこっちから、かえってくる。
みずたまりに、大しゅうごう。
どんな旅をしてきたか、早口でかたりあう。
森の生きものたちが、やってくる。
魚が、およぐ。草や木が、生える
旅をしてきた水は、えいよう、いっぱい。
生まれたいのちが、すくすく、そだつ。
みずたまりは、森のゆりかご。
みんなが、出たり、入ったり。
みずたまりは、ここに、とどまる。
ここに、いるから、できること。
みずたまり、みんなをつなぐ、
水のふるさと。』
えいががおわると、
森が、いっしゅん、しーん。
次の、しゅんかん、はくしゅ。
みずたまりは、
「わたし、みんなをつないでいるのね。
ここに、いるだけで…」
すると、
ぽこっ
ぽここっ
ぽこぽこぽここっ
みずたまりの底から、水がわき出てきた。
すきとおる水色、まるで森のソーダ水。
わきでてきたのは、
ゆたかな水と、
じぶんを信じるきもち。
みずたまりは、
すきとおる水を、ゆたかに、たたえ、
森に、凛とたたずむ、いずみになった。
この森のいずみを、見つめていると、
きよらかな、きもちになる。
しずかな、おもいが、満ちてくる。
いずみの水色は、
ちかくの涙と、とおくの海をつなぐ色。
この水色をたよりに、
くりかえし、だれかが、かえってきては、
よくやすみ、こころ、おちつけ、
また、出かけてゆく。
そのたび、いずみは、うるうる泣く。
さみしかったり、うれしかったり、
あいわらずの、涙もろさ。
いずみの、あたたかな涙で、
森が、そだってゆく。
「まったねー!」
コロルの涙だった水の旅人も、つぎの旅へ。
そして、
キラキラどうぞ
キラキラひとつ
はるか、遠くの海で、
水玉が、空にはねた。
つづく
いずみ
Pale Blue
清らかな泉のような、透明感のあるペールブルー。白をふわりと含んだ、静かな水色です。凛とした女の子を引き立てる、軽やかさをまとっています。