きのみ
「もーいーかーい」
「まーだだよー」
「もーいーよー」
森のなかまと、かくれんぼ。
コロルは、じーっと、目をこらす。
葉っぱの、うらのうら、
そのまた、うらのうらまで、さがしても
なかなか、みんなを、見つけられない。
森の生きもの、かくれんぼじょうず。
ポケットのなか、ころころ、
ふしぎの石も、見つけたがる。
さらさら ふわり
かさかさ ふわり
森をふきぬける風に、おちばの音。
「あーよーく、寝た!」
葉っぱと、葉っぱのすきまから、
スッキリめざめたのは、小さなきのみ。
よくねむり、ごきげん、にこにこ。
森に、よくなじむ、うす茶色。
よーく見ても、気づかなかった。
「あれ?みんなは?」
きのみ、きょろきょろ。
かくれんぼ中、ねむってしまったらしい。
友だちどんぐり、とおく、ころがり、
じぶんのばしょで、もう、芽をだしてる。
「ああ、出おくれてしまった…」
がっくりするのは、親の木だけ。
ほんにん、きのみは、へっちゃら。
「わたし、このまま、ここがいい!」
ゴロゴロゴロゴロ、たのしそうに、
「見つけるのも、かくれるのも、コツがあるの。
おしえちゃうから、かくれんぼしない?」
きのみは、かくれんぼがとくいで、あまえじょうず。
「もーいーかーい」
「もーいーよー」
「見つーけた!」
あっという間に、見つけちゃう。
ふだんから、森のようす、森のみんなを、
よーく見ておくこと。
それが、きのみ流、かくれんぼのコツ。
木にできた、あなのなか、ひとやすみ。
ここは、きのみの、ひみつのばしょ。
「おとなになって、木になったら、
かくれんぼ、できなくなっちゃうの。」
ぽつり、つぶやく。
「この色、かたち、かくれんぼに、もってこい。
ずっと、きのみのままが、いい!」
お父さんや、お母さんは、しんぱいそう。
おとなの木からはなれて、
おひさまが、よく当たる、
じぶんのばしょを、見つけてほしくて。
「つぎの風がふいたら、
ちょっと、向こうに、出てみたら?」
「ハーイ!つぎの風ねー!」
きのみは、どこまでも、どこふく風。
森の午後が、きもちよくて、
みんなで、ウトウトしそうになった時、
ころっ
ころろっ
ポケットから、とび出す石。
森のさかみち、ころがり出した。
「ええっ!待ってー!」
あわてて、コロルが、おいかける。
「ええ、待ってよおお」
きのみも、つられて、おいかける。
石が、ころろっ、ころがる。
コロルが、待ってー、おいかける。
きのみが、コロロン、あとをおう。
石、ころろっ。
コロル、待ってー。
きのみ、コロロン。
くりかえす。
コロル、待てー。
きのみ、コロン。
石がさいごに、ころっ。
おや?
追いかけてるのか、追いかけられてるのか、
分からなくなってきて、立ちどまり、笑いだした。
ここは、どこだ。
ひろい野はら、いちばんのり。
さえぎるものは、なにもない。
おひさまの光に、きのみ、かがやく。
きのみのうすい茶色は、
おひさまと、なかよしのサイン。
土のぬくもりにも、なじむ色。
土に、おいでおいで、さそわれて、
小さな根を、ちょこん、おろす。
おひさまに、おいでおいで、さそわれて、
小さな芽を、ぴょこん、だす。
ふり向けば、親の木は、はるか、とおく。
お父さんや、お母さんが、
すごく、うれしそうに、
ちょっと、さみしそうに、
ゆらゆらと、手をふっている。
ーいつでも、ここで、見守っているよ。
はなれても、いつでも、そばに。
こまった時や、さみしい時は、このはのお手紙をー
雨がふっていないのに、光るこのはの手紙。
ヒラヒラきのみのもとに、舞いおりる。
キラキラどうぞ
キラキラひとつ
おひさまの光と、森の涙が、そっとふるなかで、
かくれんぼきのみは、かくれんぼの木になった。
まだ小さいけれど、こんどは、
みんなを、かくしてあげるばん。
ことりの巣、リスの木の穴、
もぐらトンネルの入り口。
強いカブトムシになれる甘いみつ。
みんなの、ひみつを、まもるばしょ。
冬はとくに、おおいそがし。
みんな食べものを、あずけにくる。
うっかり、ほしぞらの扉を、しめちゃった、
カラスの子どもの、うちあけばなしには、
「わたし、そんなのばっかりだったよ!
すなおに、あやまれば、だいじょうぶ。」
じぶんだけでは、もちきれない、
そんな心を、あずけにきたら、
「わたしも、いっぱい、あまえてきたからね」
うけとめ、かるくしてあげる。
かくれんぼの木は、
うす茶色チャーミングな、きのみを実らす。
かくれんぼがとくいで、あまえんぼ。
おひさまと、土と、なかよし。
そんな、子どものこころを、だいじにした色。
やがて、おとなになるってことは、
じぶんじゃ、なくなっちゃうって、ことじゃない。
じぶんは、じぶんのまま、
好きなことは、好きなまま、
おとなのじぶんに、もっていける。
そのまま、のびのび、のびていい!
つづく
きのみ
Camel Beige
森で拾った木の実を思わせるキャメルベージュ。肌なじみの良い、穏やかな色合いです。高学年になってもしっくりなじみます。