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さくらのストーン

こかげ

「おしくらまんじゅう、ぎゅっぎゅっぎゅっ」

森のなかま、まるいわのなか、
みんな、くっつき、ぎゅうぎゅうぎゅう。

おっとっと!
わのそと、コロルが、ぴょこん、とび出た。

すると、足もとから、
「…あの、すいません。
ちょっと、どいてもらえますか」
小さいけれど、ハッキリした声。

ふんでいたのは、真っ黒な、かげの子。
「あっ!ごめんなさい!」
あわてて、とびのく。

でも、あらら。
コロルと、かげの子、
ぴったり、くっつき、とれなくなった。

コロルに、2つのかげ。
こまったな、どうしよう。
そもそも、きみは、だれのかげ?

dummy dummy

森のみんなは、ある日、じぶんのかげを持つ。
かげの子は、まだ持ちぬしに、出会っていない。
というか、出会う気がない。

だれかといるより、ひとりが好き。
きままに、大きく小さく、のびちぢみ。
どんなかたちも、じゆうじざい。

ながれる雲の、かげなら、いいかな。
でもやっぱり、ひとりが、いいや。

なのに今、コロルの、小さなかげ。
サササッ、ものすごい、はやさでうごいても、
ぐいぐい、ひっぱっても、とれない。

dummy dummy

森の、にんきスポット、かくれんぼの木が、
「わたし、ひっぱってあげる!」

枝をのばし、かげの子を、ちょっとつかむ。

「よーいしょ!」

すっぽーん

コロルから、かげが、とれた。

やったー!
と思ったら、
こんどは、かくれんぼの木に、くっついた。

ああ…
かけることばが、見つからないコロル。
ふふくそうな、かげの子。

かくれんぼの木は、うれしそうに、
「わたし、かげが、まだないの!
このまま、わたしのかげになりなよ!
みんな、集まって、たのしいよ。」

ところが、
「いや、ぼくは、ひとりがいいので。」
キッパリことわる、かげの子。

かくれんぼの木と、ならんで見ると、
おにあいなのに、とてもざんねん。

すると、

ころっ
ころろっ

石が、ポケットから、ころがり出ると、
かくれんぼの木を、くすぐり出した。

dummy dummy

キャハハ
キャハハ

木が笑うと、葉っぱが、ゆれる。
かげにうつる、こもれびも、ゆれる。

かげの子、くすぐったくて、クスッ。

コロルも、木をこちょこちょ。

キャハハ
クスッ…フフフ

キャハハ
フフッ…アハハ

かげの子も、とうとう笑いだした。
おなかならぬ、かげがよじれるほど、
笑ったのは、生まれてはじめて。

見上げれば、笑いすぎの、きらめく涙ごし、
おひさまの光にすける、木の葉っぱ。
まるで、森のステンドグラス。

さわさわ
ざわざわ

風がふくたび、葉っぱが、ゆれる。
かげのもようも、いっしょに、かわる。
おなじ風が、ふかないように、
おなじもようも、2度とできない。

なにこれ、すてき。
なにこれ、おもしろい。

まだまだ、もっと、見ていたい。
かげの子は、かくれんぼの木と、
そのまま、いっしょにいることにした。

dummy dummy

かくれんぼの木、かげの子、
ふたりのせいかく、せいはんたい。

木は、みんなでワイワイするのが好き。
かげは、ひとりしずかに、すごしたい。

でも、おなじもの見て、心がうごく。
そのたび、やわらかく、ほどける、かげの色。

野はらのまんなか、木とかげに、
虫が立ちより、花が咲けば、
ふたりのきもちは、ひとつ。

「あつい夏は、かげを、こくね!
あつさから、守ってあげなくちゃ!」

「さむい冬は、ひだまり、広めだね。
こごえた体を、あたためられるよう。」

日々のできごと、笑っちゃうこと、
すきなこと、たのしいこと、
たまに、かなしいことも、わけあいながら。

真っ黒だった、かげの子は、
ひとりのじかんも、だいじに、
ふたりで、みんなで、すごすうち、
光のゆらめきをおびた、まろやかな青になった。

dummy dummy

コロルは、なんだか、いいきぶん。
こかげに、よいしょ、こしをおろす。

ふと、手ひらの、石を見る。
あれ、キズが、ついている…
小さくなっている、気もする…

こかげに話すと、
「石が小さくなったのではなく、
きみの手が、大きくなったのでは…」

大きくなるって、じんわり、うれしい。
石は、そのぶん、小さくなって、
キズまでついて…しょんぼり、かなしい。
心のなか、いろんなきもち、おしくらまんじゅう。

こかげは、コロルのせなかを、そっと、なでた。
「どんな、きもちも、わけあえる。
きみにも、そんな、ともだち、できますように。」

コロルの小さなかげへ、
こかげの色を分けるように、願いこめ。
それは、
ひとりでいる、ここちよさと、
だれかといる、こころづよさを、
知っている色。

石の、小さなキズは、星のかたち。
石に、生まれた、流れ星のよう。

キラキラどうぞ
キラキラひとつ

dummy dummy

空を赤くそめ、おひさまが、森にかえってくる。

こかげが、だいじそうに、
「これ、きみに。もぐらが届けてくれたよ。
きりかぶの、新しいしゅみだって。」

それは、森のそうだん所のきりかぶが、
じぶんの枝で作った、ことりのふえ。
森の子どもに、あげてるらしい。

コロルは、ことりのふえを、手にいれた。

ピュロロー

森のそよ風みたいな、いい音色。
ここにいるよーと、だれかに伝えたくなる音。

ピュロロー

やまびこみたいに、
音が、かえってきたような気がした。

それは、
だれかと出会う、よかんの音色。

dummy dummy

つづく

ランドセル

こかげ

Bright Navy

光が見え隠れする木陰をイメージしたブライトネイビー。性別を問わず、やわらかな印象を与えます。光の加減で表情が変わる、まろやかな青色です。