きりかぶ
枝のブランコ、木のシーソー、
キーコキーコ、ギッタンバコン。
森のアスレチック、たのしい、さいこう。
長いすべりだい、シューヒュー。
森を、いっきに、すべりおりる。
すたっと、おりたところで、ひとやすみ。
ポケットのおやつ、口にぽん。
きいちご、いっこ、にこ、あとすこし。
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ん?
ポケットに、ふしぎの石が、ない。
おかしいな…
ポケットのおく、なんども見る。
じぶんのまわり、ぐるぐる見わたす。
どうしよう…
ごんっ
なにかに、つまづいた。
「だいじょうぶかい?」
つまづいたのは、大きな、きりかぶ。
「けっちゃって、ごめんなさい…。
石が…見つからなくて…えっと…」
ことばのかわりに、涙が、ぽろり。
「おやおや、ここに、お座りよ。
ちょっとひと息、ついたらいいよ。」
ぼろっ
ぼろろろっ
やさしくされると、
涙が、もっとでちゃうの、なんでだろう。
うぇーん
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きりかぶに座り、うぃっく、しゃくりあげる。
うぃっくのすきまから、ふんわり、木のにおい。
すると、雨があがるみたいに、涙がやんだ。
ここは、森のまんなか。
丸くて大きなきりかぶ、まるで森のおへそ。
もようは、まさに、バウムクーヘン。
年りんが、いち、に、さん、し……いったい、何才?
「なくしもの、しちゃったんだね。きもち、わかるよ。」
きりかぶは、ぴょこっと出ている、
小さな枝で、うんうん、うなずく。
葉っぱには、『きりかぶ森のそうだん所』。
きりかぶは、コロルの話を聞きながら、
じぶんの話を、してくれた。
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きりかぶの、もとのすがたは、
この森いちばん、古くて、大きな木。
ある日、
木の幹、枝や葉っぱと、おわかれした。
まっすぐのびた、強くて太い木の幹は、
あちこち旅して、新しいすがたに。
はなれても、きりかぶに、
つたわってくるのは、みんなのようす。
ぬくぬく、だれかのぬくもり、ベットだな。
くんくん、おいしいにおい、テーブルだ。
カリカリ、えんぴつ走る音、つくえだね。
森から、とおく、はなれてていても、
見えない根っこでつながりながら、
それぞれ、いきいき、生きている。
きりかぶは、森のまんなか、
どどん、どっしり、ほこらしげ。
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「さて、じゃあ、ちょっとお待ちよ。見ててごらん。」
根っこを、大きく動かした。
もこー
もこもこー
「みんな、この子の石を見なかったかーい。」
こたえるように、動きだす、まわりの木の根っこ。
もーこ
もーこ
森の木は、こうやって、
根っこと、根っこで、話をする。
もこもこが、森のおくまで、つたわってゆく。
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ことりが飛んできて、何かを、おとした。
よし来た!石か?きたいしたけれど、
だれかが落とした、小さなリボン。
つぎに来たのは、まいごのリス。
きりかぶのところに、集まってくるのは、
森のおとしもの、森のまいご、森のそうだんごと。
きりかぶに座ると、まずは、しんこきゅう。
ふぅっー息といっしょに、心配ごともはいちゃえば、
ふわぁー胸のおくまで、さわやか木のにおい。
からだ、いっぱい、森が満ちたら、
こころの、ざわざわ、ととのって。
森の風に、さわさわ、ふかれ、
会いたいだれかと、また会える時をまつ。
![dummy](/img/story/kirikabu_07.png)
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それにしても来ない、石の知らせ。
バウムクーヘンの丸いもようを見つめ、
コロルは考えた。
こんな時、石ならどうするかな。
きっと、ころっと転がって、
「できることを、やってみよう。」
はなれていても、
きみなら、なんて言うかな。どうするかな。
心のなかみを、そうぞうできるのは、
根っこが、つながっているって、こと?
コロルは、こころをきめた。
「来た道をもどってみよう。まずアスレチック!」
きりかぶは、
「知らせがきたら、このはの手紙を出すよ。
まよったら、つかれたら、もどっておいで、
いつでも、ここに。」
コロルは、きりかぶに、ペたーとだきつく。
木のにおいを、分けてもらう、胸いっぱい。
![dummy](/img/story/kirikabu_08.png)
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はじめて、ひとり、森を歩きだす。
ポケットの石のかわりに、
胸のおく、心のあたり、ぎゅっと力こめ。
しんこきゅうすれば、よみがえる木のにおい。
キラキラ どうぞ
キラキラ ひとつ
胸にうかんできたのは、
森のまんなか、どっしりどどん、
丸いきりかぶ、茶色い目じるし。
根っこが、根っこと、つながって、
ひとりでいても、ひとりじゃない。
そうおもえてくる。
森の木みたいに、背すじがのびたら、
さあ、すすもう。
![dummy](/img/story/kirikabu_09.png)
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つづく
きりかぶ
Woody Brown
ホッとするぬくもりが伝わってくるブラウン。きりかぶに腰掛けて見上げた、森の優しさに包まれるような、あたたかく落ち着いた茶色です。